続き物1


 春は好きだ。
 暖かいし、家だけだが何故か食い物が豪華になる。出会いの季節というだけあって、父ちゃんと母ちゃんの出会いが春だったらしく、それを思い出して舞い上がった母ちゃんは、つい料理に力が入ってしまうらしい。その分、その後の食卓は悲惨な状況になるのだが。
 立ち止まり、ぼんやりと河原に咲く桜を見上げる。いつからこんな咲いてたんだろうという疑問が沸いた。先週の時点ではまだ緑ばっかりだった気がするんだけどなぁ。……どうでもいっか。
 しかし、こんだけ暖かいと眠くなってくるものだ。ふーむ。
 今日はサボるか。
「お、タチバナじゃん。相変わらず眠そうなだな」
 と、不埒なことを考えていた俺に話しかける輩が現れた。クラスメートのスギタだ。中学一年からずっと六年間クラスが一緒という腐れ縁にもほどがある腐れ縁だ。元気がいい奴で、普段は喋っていて退屈しない良い暇つぶし相手だと思っているが、眠いときに話しかけられるのは鬱陶しい……。
「うるさい。黙って通り過ぎろ」
「ひどいねぇ。こんなかわいい子に喋りかけられてるっていうのに。鼻血出せよ」
「でねーよ。あーもう喋るのがめんどうなの」
「はいはい、すいませんねーだ。人が忠告してやろうと思ったのに」
「忠告? なんの?」
「時計見てみろ。私は先を急ぐ。じゃあな!」
「じゃあな」
 元気良く走り去っていくスギタ。朝っぱらから元気のいい奴め。風邪引いて寝込め。
 んで、忠告ってなんだ? 時計?
 しぶしぶながら時計を見るために左袖を捲くる。
「あー、時計忘れたわ……」
 時計を見ろと言われても、時計を持っていない場合はどうすればいいのだろう? まあ、どうせ大したことないだろう。



「はい、タチバナ遅刻」
「そういうことか」
 スギタめ。もう絶対に宿題見せてやらね。
 そう思いながらスギタの方を見れば、ケタケタと腹を抱えて爆笑していた。何がそんなに面白いんだか。後でシャーペンの芯飛ばし攻撃してやろう。
「なんか言ったか?」
「いえ、なんでもありません」
タチバナは、今月これで遅刻三回目だな」
「そうでしたっけ?」
 惚けてみる。
「ここに記録されてる。ったく、授業中もあんなに寝てるし、お前はいつも何時に寝てるんだ?」
「十時です」
「……なんでいつも眠そうなんだ?」
「眠いからです」
「……もういい」
「はい、すいませんでした」
 頭を抱える担任を尻目に、自分の席に戻ろうとする。
「あ、三回したから今日は校庭の草むしりしとけよ」
「もうむしるところ無いんですけど」
 俺が全部むしったからな。
「じゃあ、裏庭の草むしっとけ」
「了解です」
 ミッションも言い渡され、席に戻る。
「だから言ったろ。時計見ろって」
 隣の席のスギタが囁いてきた。しね。
「えいえいえい」
「痛い、やめて、芯飛ばさないで、いた、いたた」



つづくかも