岡崎朋也くんが遅刻せずに学校に来てみたはいいが、することもなく、友達の春原陽平くんもそんな時間に来ているはずがなく、暇だなーと思っている話



 なんとなくだった。その日珍しく早起きしたことも、遅刻せずに登校しようとしたことも全てはなんとなく。特に理由などは無い。学生だったら本来遅刻なんてものはしないで当然のことだ。今までの自分の行いを省みると遅刻する方が自然な気もするが……。とにかく、久しぶりに周りに喧騒が存在する、自分の存在だけやたらと浮いてるような道のりに、これまたなんとなく溜息を吐いた。



 久しぶりに朝のHRなんてものを受けてみた。担任が出席を取る時、俺の顔を見て心底驚いたような顔をしたのが印象的だった。担任が驚くのも無理はない。朝っぱらからいるなんていつぶりだろうか? 自分でも思い出せない。
 真面目にHRなんぞを受けている俺とは対照的に、隣の席は空席だった。こうして一人で学校に来てみるととんでもなく暇だ。周りは既に受験モード。俺の存在を気にするものはいない。いや、唯一委員長である藤林は、珍しく朝からいる俺が気になったらしく、ちらちらとこちらを見やってきた。それに気付きジッとそちらを見ていると目が合う。瞬間、弾けるようにものすごい速さで顔を背けられた。あんなスピードで首を動かしたら折れるのではないかと心配になったが、平気そうなので放っておくことにした。嫌われているのだろうか?
 手持ち無沙汰に窓の外を見る。雲ひとつ無い晴天と言うわけでもなく、だからといって空全体が雲に覆われているわけでもない。晴れ時々曇り。そんなもんだ。
 ぼーっと中途半端に晴れた空を見ていると、チャイムの音が響き渡った。一時間目はなんだったかなと考える。そんなことも知らない自分。古典の担当教師が教室に入ってきた。
 授業の内容はさっぱりだった。春原もいないし、眠気もなかったので真面目に授業を受けてみることにしたのだが、まず教科書がなかった。次にノートがない。最後にやる気もないことに気付いたので、結局不貞寝することにした。眠れそうになかったが、教師の説明を子守唄にしてみると、すんなり俺の意識は闇へと沈んでいった。



 目を覚ました時には、教室には誰もいなかった。時計を確認すると三時間目が始まったところか。ニ時限分すっとばして寝ていたようだ。寝すぎだ。全ては古典という最高の子守唄のせいだろう。将来、自分のガキが夜泣きしたら源氏物語でも聞かせてやろうと思った。
 しかし、なんで誰もいないんだろうか? 机の上には教科書の代わりに制服が置かれているようだ。グランドを覗き見るとクラスメートが野球をやっている姿が見えた。体育か。誰も自分を起こしてくれなかった事実に少し……いや、かなり泣けてきた。
 今更着替えて外に行くのもだるかったし、何より体操服を持っていなかった。体育はさぼることに決定。教室でこのまま寝ていてもよかったのだが、そんな姿を教師に見られたらめんどうなので、人目につきそうにない場所、屋上に行くことにした。
 たらたらと廊下を歩き、屋上に行く前にトイレに行く。サッとすませ、目指すは学校一高い場所。馬鹿と煙はなんとやら。



 鍵の壊れた鉄の扉。錆びていて開けにくいが、ノブを捻り力の限り引っ張る。少し息が切れていた。最近の運動不足を体感した。明日から筋トレでもしよう。
 屋上のフェンスにもたれ掛かる。まだ半分も過ぎていない今日一日を振り返る。遅刻せずに学校に来て、真面目に授業受けてみたけど結局寝て、体育の時間だっていうのに誰も起こしてくれない。いつも遊んでいるおもちゃ(春原)もない。つまらん。
 フェンスをぎしぎしと軋ませながら、考え、そして決心した。
 今度からしっかり遅刻しようと。
 


   <完>



継続はちからなりー。