『もしもシリーズ 〜もしも渚が秋生さん風味だったら〜 プロローグ編』



校門まで残り200メートル。

そこで立ち尽くす。

「はぁ」

ため息と共に空を仰ぐ。
その先に校門はあった。

誰が好んで、あんな場所に校門を据えたのか。
長い坂道が、悪夢のように延びていた。

シュボ

「ぷはぁ…」

別のため息? 俺のよりかは大きく、なんか違った。
隣を見てみる。

そこにはタバコを咥えて立ち尽くす女の子がいた。
同じ三年生。けど、見慣れない顔だった。
とっても眼つきが悪い。

短い髪が、肩のすぐ上で風にそよいでいる。

「オイ。この学校は、好きか? ぷはぁ」

「は…?」

紫煙をはきだしながら訊いてくる。
いや、俺に訊いているのではない。きっとそうだ。うん。

「俺はなぁ、俺は……大好きだああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

そう言って一気に坂を駆け上っていく。

……今のはなんだったんだ?
……夢だ、夢を見ていたんだろう。

「おっと忘れてたぜ!」

……リアルだった。

「でもなぁ、なにもかも…変わらずにはいられねぇんだよ!
わかるか小僧? ……えっと、ちょっと待てよ」

突然頭を抱えてウンウン唸りだす。
ぶつぶつ、あーじゃない、こーじゃないとか聞こえる。
……ああ、言おうと思ってた台詞忘れたのか。

「あっ! OK! 続き行くぞ! 穴という穴全部かっぽじって聞けよ、オラァ!」

耳だけはほじっとこうか。

「楽しいこととかなぁ、うれしいこととか、ちんちんとか、ぜんぶ。
…ぜんぶ、変わらずにはいられねぇんだよ!」

えらく力強く、思い出し思い出し、ひとり言を続ける。
一つおかしい単語が聞こえたが無視しよう。
きっとそれが正解だ。

「ウオオオオォォォォ! ちんちんはちがうだろうがぁ!」

キレだした。
どうやら不正解だったようだ。

「それでもなぁ、この場所が好きでいられるか? ちくしょおおおぉぉぉぉぉ!!」

「俺は……」

「ちんちんは違うだろ」

「えっ…?」

驚いて、俺の顔を睨みつける。

「……チンチンハチガウダロ」

棒読みになってしまった。
また不正解か?

「……ぷはぁ」

一時俺の顔をじっくり見てから紫煙をはきだす。
ポケットから携帯灰皿を取り出し、そこに吸殻をいれる。
なかなかマナーのよい愛煙家のようだ。

シュボ

そして、二本目に火をつける。

「おい、お前」

「あん? 俺か?」

「おまえしかいないだろう」

「そうだな、なんだ?」

「てめえ……」

「……」

「中々やるじゃねえか。よし気に入った!」

……気に入られちゃった。

「よっしゃぁ! 行くぞ、オラァ!」

そう。

何も知らなかった無垢な頃。

誰にでもある。

そう、誰にでも間違いはあるんだ。

「オラァ! いくぞ、コラァ!」

俺たちは登り始める。

長い、長い坂道を。


・あとがき
な、なんじゃこりゃ